『ヨセフのだいじなコート』大事なものを愛でていく。

こんにちは。

先日のこと。お店に来てくれた男の子がこの絵本を本棚から取り出してくれました。

いっしょに読んだのですが、私自身もその絵本を開くのは久しぶりで、こんな絵本だったのか〜、と新鮮なきもちに。

今日は、ちょっと季節外れ?かもですが、この絵本をご紹介したいと思います。

分厚いコートを着たおじさんと、おじさんを見つめる鳥たち。
いったいどんなお話なんでしょう♪

・・おはなし・・・

”ヨセフは コートを もっていました。でも、あちこち すりきれて つぎを あてていました。”

農家でしょうか、いつも沢山の動物に囲まれて暮らしているヨセフおじさん。おじさんのコートには継ぎが当たっていて長い間使ってきたもののようです。

おじさんはあるとき、コートをジャケットに仕立て直すことに。そして、新しくできたジャケットを着て村祭りへ出かけます。

表紙の穴だらけのコートに、継ぎが当たってます。表紙からお話が始まってる細かな演出が素敵♪
服の部分が切り抜きになっていて、めくると新しい形が現れます。

ところが。
次のページをめくると、ヨセフおじさんのジャケットの袖は継ぎでいっぱい。

そこで、おじさんは今度はジャケットをベストに作り替えることにするのです。

このあと、ベストがマフラーに、マフラーがネクタイに、ネクタイがハンカチに、ハンカチがボタンに・・・。どんどん姿を変えていくヨセフおじさんのコート。

最後にはボタンを無くしてしまい、おじさんは ”なんにもない!” になってしまいます。

そこでおじさんが思いついたのは、コートのことを「本」にすることでした。

”なんにもない”になるまでには、いろんなことがあったから。

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ページをめくったとたんに現れる色鮮やかなコラージュや、動物たちや、人々の衣装にわくわく。

おじさんのコートが変化していく様子が切り抜きの仕掛けになっていて、次は何になるんだろう〜、と、想像しながらめくっていくのが楽しいです。

おじさんのお家にも注目。
壁には「コート ふるけりゃ あな あたらしい」「うつくしい あなより みにくい つぎあて」なんて、穴あきや継ぎ当てに関する格言が、まるで先人の教えのごとく飾ってあったり、新聞にくすっと笑えるようなことが書いてあったり、細かいところまで遊びごころ満載です。

作者シムズ・タバック(Simms Taback) は、この作品で2000年コールデコット賞を受賞しています。
(作者のHPはこちら。HPも見てて楽しくなる。)
Simms Taback.com

子どものころイディッシュ語の『オーバーコートをもっていた』という民謡が大好きだったそうで、この絵本はその歌をアレンジして作られたということです。

(イディッシュ語は、中世ドイツに住んでいたユダヤ人の言語として誕生し、第二次世界大戦後はアメリカやイスラエルに渡ったユダヤ人のコミュニティで多く使用されているとのこと。ドイツ語によく似ているそう。)

挿し絵のなかの手紙から、お話の舞台がポーランドだというのが伺えます。
花嫁さんの衣装や、村の人々のまとっている民族衣装が素敵で、目をひきます。

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絵本のなかでおじさんはどうやら一人暮らしのようですが、動物や、家族や村のひとたちに囲まれていて、ちっともさみしくなさそう。ちょっとおとぼけな表情とニヒッという笑顔にほんわかします。

コート以外の服にも、いろいろ継ぎがあたっているのが気になるわたし。でも、そんなに貧乏じゃなさそうだし。笑 ものをどこまでも大事に愛でる姿は見習いたいな。

ある村のあるおじさんの暮らしの、大らかな豊かさが伝わってきます。
ユダヤ民話の『ありがたいこってす!』というお話を思い出しました。こちらも、あるものを大切に・・・というお話だったな。また、別の機会にご紹介します。

ミニマリストな生活がブームになって久しいですが、確かに、ものは本当はたくさんなくてもいいのかもしれない。ただのものではなくて、(こんまり風に言えば)心からときめくものを、リメイクしたりしながら愛でているだけで、人生は豊かなのかもしれない。
そんなことを改めて考えさせられた楽しい仕掛け絵本です♪

わたしもこのおじさんのように着古したコートをジャケットにしてみたいのだけれど、うまくできるかしら。だれかに頼まないと無理そうですが、憧れます。

最後にもう一つ。

作者タバック氏のコメントに、こう書いてあります:

“〜, while children laugh at the bold, cheerful artwork and learn that you can always make something, even out of nothing.”

ボタンがなくなってしまい落胆して終わるのではなく、今度は新たに「本」というものを作り出す。それができるのは、これまでの道のりがあったからこそ。

一見何もかも無くなってしまったように見える状況も、実はそうではなくて、そこからいつだって新しく創り出すことができるんだ、という前向きなメッセージを感じる作品でもあります。

訳をされた詩人で翻訳家の木坂涼さんが、アメリカの本屋さんで出会った一冊だそうです。

ぜひぜひ、読んでみてください。

『ヨセフのだいじなコート』
“Joseph had a little over coat”
シムズ・タバック 作
木坂涼 訳
フレーベル館 2000年
読んであげるなら:3歳さんくらいから(文章は少なめ。仕掛けや繰り返しを楽しめると思います!)

裏表紙も素敵♪

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